断酒が「攻略ゲーム」だった頃が一番楽しかった|1年を過ぎて“つまらなくなった”人へ
酒をやめて、1年2ヶ月が過ぎた。
正直に告白すると、断酒が一番楽しかったのは、最初の数ヶ月だった。眠れない、イライラする、飲みたくてたまらない。あの一番苦しい時期が、僕にとっては一番面白い時期でもあった。
そして今、飲まないことが完全に普通になった。苦しさは消えた。それなのに、あの頃のような手応えもまた、静かに消えていった。
もし今あなたが、断酒を半年、1年と続けていて、「続いてはいる、でもなぜか楽しくない」と感じているなら、この記事はまっすぐ役に立つはずだ。結論から言えば、それはあなたの意志が弱くなったからではない。理由はもっと単純で、抜け出すヒントもちゃんとある。
続いているのに、気持ちが乗らない
断酒を1年ほど続けた人から、こんな声をよく聞く。
体重も落ちた。眠れるようにもなった。数字の上では成功している。それなのに、なぜか気持ちが乗らない。今日くらい休んでもいいか、と考えてしまう自分がいる。そして、そんな自分に嫌気がさす。
僕もまったく同じだった。1年を超えたあたりから、断酒への熱が明らかに下がった。飲みたいわけではない。戻りたいわけでもない。ただ、面白くないのだ。
厄介なのは、この状態を自分で責めてしまうことだ。ここまで続けてきたのに、なぜ気持ちが続かないのか。自分は意志が弱いのではないか。そうやって、自分で自分を殴り始めてしまう。
だが、考えてみてほしい。断酒を1年続けた人間の意志が、弱いはずがない。1年やめられたという事実そのものが、その反証になっている。
問題は意志ではない。報酬の受け取り方が、途中で変わってしまっただけなのだ。
断酒初期は「攻略ゲーム」だった
まず、断酒を始めた頃の話をしたい。
あの時期、僕は毎日、酒をやめるための方法を探していた。飲みたくなったら甘いものを食べるといい。汗をかくと欲求が引く。夜の時間の使い方を変える。とにかく片っ端から調べて、試して、結果を確かめる。
これは完全にゲームだった。攻略サイトを読んで、実際にダンジョンに潜って、その手が通用するかどうかを確かめる。あの構造そのものだ。
やった分だけ、すぐ返ってくる
しかも初期の断酒は、返ってくる反応がとても早い。
3日やめれば、朝の目覚めが変わる。1週間で顔のむくみが引く。2週間で体重が落ち始める。1ヶ月経てば、数字がはっきり動く。やった分だけ、その週のうちに返ってくるのだ。
カレンダーに印をつける。連続記録が伸びていく。これも強烈だった。数字が積み上がる、ただそれだけのことに、脳はしっかり反応してくれる。
苦しかったのは間違いない。だが、苦しさと引き換えに、毎日何かが手に入っていた。だから続いたのだと思う。
「即時報酬」があったから続けられた
つまり、初期の断酒には即時報酬があった。今日やめた、その効果を、今週のうちに体で受け取れる。ゲームで言えば、経験値のバーが目に見えて伸びている状態だ。
苦しいのに楽しい。あの矛盾した感覚の正体は、これだったと思っている。
なぜ、楽しさは消えてしまうのか
では、なぜその楽しさが消えるのか。
答えは単純で、攻略が終わってしまうからだ。
飲まないことが「普通」になる
飲まないことが普通になると、まず変化が止まる。体重の落ち方はゆるやかになり、睡眠はとっくに整っていて、朝の爽快感は毎日あるせいで感動しなくなる。
これは悪いことではない。むしろ、完全に成功している証拠だ。断酒の目的地は、飲まないのが当たり前になった自分になることだったのだから。
ところが脳は、これを別の意味に読んでしまう。変化がない、新しい情報がない、つまり退屈だ、と処理してしまうのだ。
さらに、試すことがなくなる。飲みたくなった時の対処法を探す必要がない。断酒の情報を漁る必要もない。攻略本を読んでも、もう知っている内容しか書いていない。
ゲームで言えば、ラスボスを倒した後の世界を歩いている状態だ。装備は揃っている。行ける場所は全部行った。危険はない。だが、やることもない。
その退屈は、ゴールに着いた証拠
そして、ここが一番大事なところだ。ここで感じる物足りなさは、失敗の合図ではない。ゴールに着いた人だけが受け取る感覚だ。
飲みたくてたまらない時期の人は、この退屈を味わえない。退屈を感じられている時点で、あなたはちゃんと前に進んでいる。
僕はここを取り違えて、しばらく落ち込んでいた。楽しくないのは、自分の何かが足りないからだと思っていた。違った。単に、クリアしていただけだった。
報酬が消えたのではなく、順番が変わっただけ
ここからが本題だ。攻略が終わった後、断酒はどう続けていけばいいのか。
僕がたどり着いた結論は、報酬が消えたのではなく、報酬の順番が変わっただけ、というものだ。
昔は「やる前」に、今は「やった後」に来る
初期の報酬は、作業をしている最中に手に入るタイプだった。試している時点で楽しい。数字が動く。その日のうちに返ってくる。
今の報酬は、そうではない。後からしか来ない。
僕の場合で言えば、今の楽しみは、続けた先で誰かから返ってくるものに変わった。同じことで悩んでいた人と話が通じる。飲まない自分でいたからこそ成立した予定が入る。飲まなかった月のぶん、家計に余裕が残る。
こういう報酬は、始める時点では何も見えない。動いた後で、しばらく経ってから届く。
これが何を意味するか。取りかかる瞬間に、やる気が出ないのは当たり前だ、ということだ。
昔は、手をつけた瞬間に楽しさが始まった。今は、手をつけても何も起きない。報酬は、ずっと後ろで待っている。だから、やる気が出ないのは意志が弱いからではない。順番が、そうなっているだけなのだ。
やる気を待たず、淡々と続ける
この理解にたどり着いてから、僕はやり方を変えた。
まず、やる気が出るのを待つのをやめた。待っていても来ないからだ。順番が逆なのだから、動いた後に、時間差でやってくる。
そして、評価する対象も変えた。今日の手応えではなく、続いているかどうかだけを見るようにした。今日面白かったかどうかは、もう指標にしていない。
派手な達成感を追いかけるのもやめた。あれは初期限定の報酬だ。もう一度あれを味わおうとすると、極端な目標を立てて、自分で自分を追い込んでしまう。
淡々とやる。この言葉は、断酒1年目までは物足りなく聞こえていた。だが今は、これが一番強いやり方だと思っている。
手応えのない日も、ちゃんと働いている
最後に、こんな話をしたい。
何も特別なことをしていない一日でも、体の中では回復が進んでいる。断酒の記事も読んでいない、工夫もしていない、ただ飲まなかっただけ。そんな日にも、酒を飲まない自分という実績が、確実に1日分積み上がっている。
これは、しばらく手が止まっていた時期に気づいたことだ。自分では何も進んでいないつもりでも、過去に積み上げたものは、勝手に働き続けていた。止まっていたのは自分の手であって、積み上げてきたもの自体は止まっていなかった。
断酒もまったく同じだと思う。手応えがない日は、止まっている日ではない。ちゃんと働いている日だ。
まとめ|続いていること自体が、一番効いている
断酒が一番楽しかったのは、それが攻略ゲームだった時期だ。試す、返ってくる、数字が動く。この即時報酬があったから、あの苦しさの中でも続けられた。
飲まないことが普通になると、その報酬は消える。だが、これは失敗ではない。ゴールに着いたということだ。攻略が終わったから、攻略の楽しさが消えた。それだけの話だ。
そして、報酬そのものが消えたわけではない。後から届くタイプに変わっただけだ。だから、やる気が出ないタイミングで動く必要がある。順番が入れ替わっている以上、それしかない。
もし今、断酒が続いているのに面白くないと感じているなら、それは停滞ではない。クリアした人だけが立てる場所だ。
派手さはない。手応えもない。それでも、続いていること自体が、たぶん一番効いている。
